SDGs(持続可能な開発目標)は今後も地球全体が持続可能で、その中で発展し続けられるように定めた目標を指します。
SDGsに関してはこちらの記事で簡単にまとめたので、ご参照ください。
持続可能といえば「どんどん膨れ上がっている介護保険は持続可能なんだろうか?」と思われた方はおられませんか?
現在、私たちがサービスを提供している介護保険は将来は自分たちがお世話になることになります。
さて、私たちが介護保険を利用するころまでこの制度は持続しているのでしょうか?
持続可能な制度なんでしょうか?
持続させるために、今の私たちにできることは何があるのでしょうか?
SDGsの本筋からは逸れますが、この記事ではそのあたりを考えていきたいと思います。
介護保険制度の予算はどこから出ているのか
まず、介護保険単体を考えていく前に社会保障給付費について触れておきたいと思います。
社会保障給付費とは、「医療」「年金」「福祉その他」の社会保障3分野において、税金や社会保険料などを財源とした費用を ILO(国際労働機関)の基準によって集計したものを指します。
よく似た言葉で「社会保障関係費」というものがありますが、これは社会保障給付費のうち、国税、つまり国庫から支出された費用を指します。
社会保障関係費(国庫支出金)+税金(地方税)+保険料=社会保障給付費
となっています。
介護保険制度は2000年に誕生し、社会保障給付費の一部として計上されています。
介護保険制度とも関わりが深い医療保険制度も社会保障給付費の一部であり、介護保険制度を単体で考えるのではなく、社会保障として全体を捉えることが必要だと思います。
日本の社会保障給付費、介護保険給付費はどのくらいかかっているのか
では日本の現状を確認していきましょう。
現在(2020年)の日本の社会保障給付費の予算は126.8兆円です。
社会保障給付費は年々増加しており、国民所得総額に対する割合は現在(2020年)30.5%でこちらも年々高くなっています。
その中で介護保険は12.3兆円で全体の約9.7%となっています。
2000年には介護保険給付費は3.3兆円(4.2%)だったので、
20年で約4倍に膨れ上がっている
ことになります。
社会保障給付費全体に対する割合も年々高くなっています。
では、今後、日本の社会保障給付費はどのように推移していくのでしょうか?
今後の社会保障給付費、介護保険給付費の予測
下の図は政府から出された今後の社会保障給付費の見通しです。
今後も社会保障給付費はどんどん増加していくことがわかります。
GDP(国内総生産)も増加していきますが、介護、医療ともにそれを上回るペースで増加していく予測がされています。
つまり、収入の増加よりも支出の増加の方が多く増加するということです。
私たちの日常に置き換えると、今年の給料の昇給が10万円だったとして、子供の学費は12万円になった、といったような話です。
これでは持続可能な制度だとは言えませんね。
なぜこのようなことが起こっているのでしょうか?
なぜ介護保険給付費は増加していくのか
この疑問に関しては恐らく容易に想像がつくと思います。
そうです、高齢化が進んでいるからです。
こちらのグラフをご覧ください。
日本の人口は2008年をピークに減少に転じていますが、高齢者人口は今後も増え続け人口割合も年々高くなっていきます。
その中でも注目すべきは75歳以上の人口です。
下の図をご覧ください。
図にある通り、75歳以上の一人当たりの医療費、介護費は65~74歳の高齢者と比較して大幅に増加しています。
今後、75歳以上の高齢者が増えていくことが先ほどのグラフからもお分かりいただけると思います。
今の制度のままでは社会保障費はどんどん膨らんでいくため、持続可能な状態とはいえないと思います。
それでは今後、どのような対策を取っていけばよいのでしょうか?
介護保険制度を持続可能な制度にするために
みなさんご存じの通り、介護保険制度は3年に1度、改定が行われています。
近年の改定ではリハビリ、自立支援にかなり手が加えられている印象があります。
もちろん、自立を目指すことは良いことだと思いますし、本人の希望を実現できるような働きかけはとても重要だと思います。
しかし、私は制度の持続性のためにもリハビリや自立支援に重きをおかれた改定が続いているんだと考えています。
リハビリや自立支援の項目に重点的に加算をつけ、取り組みを促すことで高齢者の自立度を改善し、介護保険給付費を削減することを目指しているともとれると思います。
要支援の利用者に対する通所リハの実質的な利用期限の設定(12か月以上は減算されるので、事業所としては利用終了を促す)もそのひとつだと考えています。
リハビリや自立支援に関する取り組みをしっかりと行い、高齢者が元気になることで介護保険をできるだけ使わずに生活を続けられるような状態を目指し、介護保険給付費を減らすことで持続可能な制度にしようとしているのではないでしょうか?
様々な意見があるとは思いますが、私はそのような側面もあるのではないか、と考えています。
介護保険制度を持続させるために一人の理学療法士としてなにができるか
それでは日々の仕事の中で私たちが介護保険制度を持続可能にするために何ができるのでしょうか?
これはただひとつ
淡々と目の前の利用者の自立支援をし、元気になってもらうこと
だと思います。
今、担当している利用者の支援に懸命に取り組み、元気になっていただく。
元気になれば自分でできることが増え、行きたい場所に行けるようになり、自然と利用するサービスの量は減ります。
利用するサービスの量が減れば、介護保険給付費の削減につながります。
例えば
- レンタルしている手すりがひとつ減る
- 車いすが歩行器になる
- 段差昇降が可能となり、自宅に入るための昇降機が不要となる
- 自宅で昼食の準備を自分でできるようになり、訪問介護の利用回数が減る
- 服薬管理が自分でできるようになり、訪問看護の利用回数が減る
どれも利用者の生活が良くなることです。
それは自然と制度が持続可能となる方向に動くのです。
ひとつひとつを取り上げるとわずかなことでも、
全国で同じようにひとつずつ丁寧な支援を継続すれば大きな動きになります。
まとめ
- 介護保険制度とも関わりが深い医療保険制度も社会保障給付費の一部であり、介護保険制度を単体で考えるのではなく、社会保障として全体を捉えることが必要
- 介護保険給付費は3.3兆円(4.2%)だったので、20年で約4倍に膨れ上がっている
- GDPも増加していくが、介護、医療ともにそれを上回るペースで増加していく予測がされている
- 75歳以上の一人当たりの医療費、介護費は65~74歳の高齢者と比較して大幅に増加している
- 私たちができることは淡々と目の前の利用者の自立支援をし、元気になってもらうこと
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