ノーリフティングケアという言葉を聞いたことはありますか?
この記事ではノーリフティングケアの概要、なぜノーリフティングケアが必要なのか、ノーリフティングケアのメリットについて解説していきます。
ノーリフティングケアとは
ノーリフティングケアとは文字通り
抱えない
持ち上げない
介助のことを指します。
日本ノーリフト協会ではノーリフティングケアの発祥について以下のように述べています。
かつて、オーストラリアでは看護師の身体疲労による腰痛訴え率が上がり、離職者が増えて深刻な看護師不足に陥りました。そこでオーストラリア看護連盟が看護師の腰痛予防対策として1998年にノーリフト®をスタートさせたことに端を発します。
https://www.nolift.jp/nolift/nolift-careより引用
人力のみの移乗を禁止し、患者さんの自立度を考慮して福祉用具を活用しようという考え方です。
ノーリフティングケアはオーストラリア発祥の考え方で、従事者の腰痛予防対策として始まったと言われています。
日本では先述した日本ノーリフト協会が推進しており、高知県では「ノーリフティング宣言」というものを出し、ノーリフティングケアを推奨しています。
ではなぜノーリフティングケアが必要なのでしょうか?
ノーリフティングケアはなぜ必要なのか
どれくらいの人が腰痛を抱えている?
オーストラリアでは看護師の腰痛の訴えが増え、離職者が増えたことがノーリフティングケアが始まったきっかけだと言われています。
では、日本の現状はどうなっているのでしょうか?
あなたの職場で腰痛を訴えている職員はおられますか?
コルセットを装着して業務にあたっている職員はどれくらいおられるでしょうか?
少し周りを見渡すと、たくさんおられるのではないでしょうか?
まだまだノーリフティングケアが浸透しておらず、移乗動作時に抱え上げたり、二人がかりで抱き上げて移乗したり…そんな場面を見かけることが多いのではないでしょうか?
日本ノーリフト協会の2012年の調査によると、日本で働く介護職員のうち、なんと72%もの職員が腰痛を抱えて仕事をしているということがわかりました。
介護の仕事をしていると腰痛がある、といっても過言ではありませんね。
ほとんどの介護職員が腰痛を抱えながら我慢して業務にあたっているということですね。
しかしなかなか浸透しないノーリフティングケア…
なぜノーリフティングケアが浸透しないのか
なぜノーリフティングケアが浸透しないのか。
それはいわゆる根性論や先入観のようなものが背景にあるのではないでしょうか?
介護の仕事は腰痛がでて当たり前だ
腰痛がでないなんて楽をしているだけだ
腰痛があるのは技術が足りないからだ
等など…
そんなセリフを聞いたことがある方やそんな空気感を感じている方も多くおられるのではないでしょうか?
もちろん技術の問題や業務量の多寡、役割の違いによって腰痛の有無に影響があることもあるかもしれません。
でもそれって組織としてとても未熟だとは思いませんか?
組織として動いている以上、誰がしてもいつでも変わらない仕事ができることが大切なんではないでしょうか?
腰痛を職員一人ひとりの責任に擦り付けるのではなく、組織として腰痛対策を考える。そんな視点が必要なんじゃないかと思います。
厚生労働省からの指針
厚生労働省から「職場における腰痛予防対策指針」という指針が出されていることはご存知でしょうか?
これが平成25年に改定され、介護作業の適用範囲が「重症心身障害児施設等における介護作業」から「福祉・医療等における介護・看護作業」全般に適用を拡大されました。
つまり病院や介護施設全般、私たちが働くフィールドのほとんどが適用範囲になったことになります。
この指針では腰痛予防対策として環境面、心理面、社会面など様々な方向からの腰痛対策について言及されています。
その中で重量物の取り扱いについて下の図のように述べられています。
この条件を当てはめると…
ほとんどの場合、人を持ち上げるという行為はしてはいけないということになります。
特に女性の場合はほぼ不可能です。例えば体重50kgの女性の場合、持ち上げられる重量物の重さは12kg以下ということになりますね。
ですから抱え上げない、持ち上げない方法、つまりノーリフティングケアが必要となるのです。
ノーリフティングケアのメリット
事業所側のメリット
事業所のメリットとしては、何と言っても腰痛の職員が減り、離職率が下がることにあります。
実際にノーリフティングケアにはどの程度の効果があるのでしょうか?
上のグラフはオーストラリアでノーリフト(ノーリフティングケアと同じものと考えていただいてOKです)が導入される前後の腰痛での労災申請の数値をグラフ化したものです。
ノーリフトを導入してから明らかに腰痛が減っていることがわかりますね。
腰痛が減るということは職員の欠勤や離職が減り、人件費の削減に繋がります。
これは事業所にとって大きなメリットと言えるのではないでしょうか。
利用者側のメリット
次に利用者側としては、まず、移乗が楽になります。
職員の人力のみに頼る介助方法だとどうしても技術の良しあしがでます。
「あの職員が介助してくれるとうまく移乗できるけど、あの職員の介助で移乗するのは痛くていやだな…」
と心の中で思っておられる利用者もおられると思います。
私は現場で何回かそんな訴えをされる利用者に出会ったことがあります。
リフトなど移乗補助具を使用することで人力に頼ることなく移乗ができるのでそのようなこともなく、楽に安全に移乗ができるようになります。
「あれ?移乗でできる能力を発揮してもらった方が良いんじゃないの?」
と思われたそこのあなた!
確かにそれも一理ありますね。
移乗動作の時に少しでも下肢で踏ん張ることで下肢筋力を使う機会が増える。
それも正しいです。
しかし、移乗が大変だからベッドに寝ている時間が長くなっている方はどうでしょうか?
移乗動作を楽にし、ベッドから離れている時間を増やす方がメリットが大きいと思います。
もう一つ利用者側にはメリットがあります。
誰でも腰痛はあるよりない方が良いに決まっています。
身体のどこかに痛みがあるのは、たとえ些細な痛みでもつらいことです。
痛みなくできる方法があるならその方が良いし、それは楽をしているからダメだとかいうことはないと思います。
業務の負担を減らしてその分、利用者と関わる時間が増えたり職員が余裕をもってケアをすることでより良い介護を提供することができ、より良い施設になることができると思います。
まとめ
ノーリフティングケアの概要、必要性、メリットについてまとめました。
ノーリフティングケアは介護現場の腰痛対策として取り入れられるべき考え方です。
噂レベルですが、ノーリフティングケアを推進している施設には加算がつくようになる?なんて話もありますし、ノーリフティングケアを導入していないと減算になる?という噂もあります。
いずれにしてもノーリフティングケアはその効果も実証されており、利用者を守るため、職員を守るため、より良い職場を作るためにノーリフティングケアは早く導入したほうがよさそうですね。
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