介護保険制度は平成12年(2000年)4月から始まりました。
私はまだ働いていない頃でしたが、介護保険が始まってから今年で22年目となります。
私が働きだしたころには介護保険は当たり前にあり、今では多くのリハビリテーション専門職もその制度の中で働いています。
ところで介護保険がなぜできたのか、これまで介護保険はどのような改定が行われてきたのかご存じでしょうか?
この記事ではこれまでの介護保険の変遷を振り返り、そこから今後の介護保険の向かう先について考えていきたいと思います。
介護保険制定までの歴史
まず、介護保険制度が始まるまでの制度の変遷をみていきましょう。
老人福祉法の制定
さかのぼること約60年…
日本の高齢化はまだ5.7%の時代です。
1962年に訪問介護事業が創設され、翌年には老人福祉法が制定され、特別養護老人ホームが作られました。
老人福祉法は高度経済成長による都市化、核家族化に伴って家族内の互助機能の低下、地方高齢者の福祉の問題を背景に作られた法律です。
この法律の目的は
老人の福祉に関する原理を明らかにするとともに、老人に対し、その心身の健康の保持及び生活の安定のために必要な措置を講じ、もつて老人の福祉を図ることを目的とする。
老人福祉法 第一条
とされており、高齢者福祉を担当する機関や施設、事業に関するルールについて定めた法律で、社会的弱者に対して公費をもとに措置をおこなう公助の仕組みを定めたものです。
措置制度とは?
措置制度とは簡単にいうと行政が利用するサービスを決定し、利用者に措置としてサービスを利用してもらう制度です。
したがって、利用する側に選択権はありません。
「あなたはこんな状態です。こんなサービスを使ってもらうので、ここの施設を利用してください。」と指定され、言われた通りのサービスを使うしかありません。
この制度は高齢者だけでなく、障害者福祉の中でも最近までとられてきた制度です。
老人医療費の増大
1970年代にはショートステイやデイサービス事業が創設されました。
1973年には老人医療費が無料化となり、老人医療費が拡大していきました。
老人医療費が無料だったため、利用者負担は福祉サービスよりも低く、介護を理由とする一般病院への長期入院を利用するケースが増えました。
サービス提供側の視点からみると医療サービスを提供するほうがコストが高く、医療費が増大していったのです。
また、病院は基本的に治療を目的とする施設のため、介護を要するものが長期療養する場としてはスタッフや環境の体制が不十分でした。
ゴールドプランの策定
1989年にゴールドプランというものが策定されました。
ゴールドプランは高齢者保健福祉推進10ヵ年戦略の通称で、平成11年度までの10年の目標として策定されました。
このゴールドプランでは、
- ①ホームヘルパー、ショートステイ、デイサービスセンター、在宅介護支援センターなどの在宅福祉対策
- ②特別養護老人ホーム、老人保健施設、ケアハウスなどの施設対策
- ③地域での機能訓練の実施、在宅介護支援センターにおける保健婦・看護婦の計画的配置などの寝たきりの予防策を計画的に進めること
といった項目に具体的な目標値を掲げられました。
1994年には整備目標を上方修正された新ゴールドプランが策定され、ゴールドプランの推進がなされてきました。
これと同じころに厚生省に高齢者介護対策本部が設置され、介護保険制度の検討が始められ、1997年に介護保険法が成立、2000年に介護保険法が施行されました。
介護保険はどのような制度なのか
介護保険制度の基本的な考え方には以下の図に示す3つがしめされています。
これらの基本的な考え方を基に制度が作られています。
私たちはなによりも自立支援が一番にうたわれているところに注目したいですね。
また、それまでの措置制度とは異なり、利用者本位という考え方もしめされています。
つまり、利用者がサービスを選ぶ制度のため、サービス提供側の視点では選んでもらえるようにサービスを向上しないといけなくなり、自然と競争原理がうまれ、全体のサービスの質が上がることが期待できます。
介護保険は3年に一度改定が行われることになっています。
3年に一度、制度を見直し現状に応じたサービスに少しずつ形が変わっていっています。
現在の介護保険は地域包括ケアシステムの構築に向けて動いています。
地域包括ケアシステムは2025年を目標に構築が進められている制度ですので、今後の介護報酬改定にも注目していく必要があります。
介護保険はどのような方向性で運用されてきたのか
さきほども述べたように、介護保険の基本的な考え方は自立支援です。
しかし、実際の運用はどうでしょうか?
介護はしてもらうもの
介護はできないことをお手伝いする仕事
というふうに認識されていることが多いのではないでしょうか?
確かにできないことをしてもらうのは楽です。
介助してしまうことで時間短縮となり業務はスムーズに進むかもしれません。
しかしそれで果たして自立支援が実現できるのでしょうか?
できないことをできるようにならないと自立は叶いません。
ではなぜそのような運用がされてきたのか。
それはずばり選んでもらうためだと私は考えています。
先に述べたように介護保険制度ができる前は措置制度でした。
措置制度では利用者側に選ぶ権利はなく、措置されたサービスを利用するしかありませんでした。
しかし、介護保険制度が開始されてから利用者に選ぶ権利が与えられました。
人はどうしても目先の利益にひかれてしまいます。
何か月か先に自分でできるようになるために頑張るよりも今、楽に用事が済む方が良いと感じてしまいます。
利用者に選ぶ権利があり、事業者は選ばれないと存続できなくなってしまいます。
選ばれるサービス=目先の生活を楽にできるサービス
という構図ができてしまっているのではないでしょうか。
介護保険は今後どうなっていくのか
さて、そんなことで自立支援が置き去りにされてきた介護保険制度ですが、改定のたびに改めて自立支援が強調されるような改定が繰り返し実施されてきました。
令和3年度の介護報酬改定では遂に入浴加算について、自立支援の取り組みをしているかどうかで点数がかわるような加算も現れました。
今年度からLIFEによる情報収集、フィードバックが開始されました。
今後はLIFEで集められたビッグデータを使用して様々な解析がされ、適切なサービスを提供していないと存続が難しくなるような報酬体系が組まれることも予想されます。
繰り返しになりますが、介護保険の基本的な考え方で一番に挙げられている考え方は自立支援です。
高齢者の人口は今後も増えていきます。
できないことを補うサービスの提供を続けていると介護保険制度の継続はすぐに難しくなることが考えられます。
できないことができるようになり、できることは自分でしていただき一人当たりのサービス利用数を減らすことで介護保険制度が持続可能な制度になると思います。
まとめ
ざっと介護保険制度の成り立ちから今後の方向性の私なりの予測まで書いてきました。
いずれは私たち現役世代もお世話になるであろう介護保険制度。
私たちがお世話になるころにもさらには私たちの子世代、その次の世代も介護保険が利用できるような制度にするためにも今一度介護保険に関わる全職種が介護保険のそもそもの考え方や制度の方向性を見直し、サービスを提供していかなければならないと思います。
この記事がそんなことを考えるきっかけとなれば幸いです。
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