みなさん、認知症がある患者さんや利用者さんを担当したことがありますか?
ありません!といえるリハビリテーション専門職や医療・介護従事者は少ないんじゃないでしょうか?
また、認知症がある方への対応に苦慮した経験があるのではないでしょうか。
この記事では認知症をお持ちの方へのリハビリテーションや支援について考えていきたいと思います。
なぜ認知症と支援とリハビリテーションについて考えないといけないのか
ここでひとつ考えていただきたいことがあります。
要介護状態になった原因で一番多い原因は何だと思いますか?
みなさんが普段働いている中で介護保険を利用している方がお持ちの疾患はどんな疾患が多いでしょうか?
骨折?脳血管疾患?
では、下のグラフをご覧ください。
このグラフは2019年の厚生労働省「国民生活基礎調査」をもとに作成したグラフです。
なんと、要介護状態になった原因の第一位は認知症なんです。
私はこの調査結果を見るまでは脳血管疾患や運動器疾患が多いのでは?と思っていました。
認知症が要介護になる原因で最も多い…
ということは
介護予防を進めるうえで認知症は絶対に無視できない要素である
といえます。
認知症がある患者・利用者に支援・リハビリテーションを提供できない?
ではこんなセリフを聞いたことがありませんか?
認知症があるからリハビリができない
認知症があるから動いたら危ない
どうでしょうか。
私は聞いたことがあります。
ではこれは正当な主張なんでしょうか?
これはなんとも残念な発言に感じますね。
言いたいことはわかります。
認知症の影響でなかなか口頭指示に従命できなかったり、危険認知能力が低下していて転倒の危険が高いなんてことはあると思います。
では認知症をお持ちの方に対しては私たちは何もできないのでしょうか?
そんなことはない、と思いたいですね。
認知症に対するリハビリテーションは効果があるのか
では、認知症に対してどんなリハビリテーションが効果があるんでしょうか。
日本神経学会から出されている認知症疾患診療ガイドライン2017の中で「運動は認知症予防に有効か」という問いに対して以下のようなガイドラインが提示されています。
多くの観察研究により,定期的な身体活動は認知症やAlzheimer型認知症の発症率の低下と関連すると報告されている.認知症のない高齢者や軽度認知障害を呈する高齢者に対する身体活動の介入試験では,認知機能低下を抑制したという報告があり,運動を積極的に取り入れることが推奨される
エビデンスレベル・推奨グレードは1Bで認知症の予防に対して効果があることが示されています。
運動を積極的に行うことで認知症を予防できることが比較的高いレベルで推奨されています。
次に「MCIから認知症への進行を予防する方法はあるか」という問いに対しては以下のようなガイドラインが提示されています。
高血圧や糖尿病,脂質異常症などの管理,適度な運動を続けることなどが推奨される.軽度認知障害者において,認知症への進行予防を目的として抗認知症薬を使用すべきであるとする十分な根拠はない
エビデンスレベル・推奨グレードは2Cであり、十分な根拠を示すことができていません。
このQ&Aの解説には以下のように書かれています。
薬物療法としては,適度な身体活動,有酸素運動,地中海式ダイエット,ココア,禁煙などで有効性が示唆されているが,少数例を対象とした研究がほとんどで,十分なエビデンスはない5-7).65歳以上の軽度認知障害者160人を2群に分けて認知活動(cognitive activity)の効果を2年間追跡したPromoting Healthy Aging with Cognitive Exercise(PACE)studyでは,quality of life(QOL)の改善効果を認めたものの認知機能低下を抑制する効果は確認できなかった8).認知リハビリテーションもしくは認知機能訓練が認知機能の維持向上に有効であることを示唆する複数の研究があるが,介入方法や評価方法を標準化するためにさらなる介入研究が必要である
このふたつのガイドラインから言えることは
運動は認知症の予防には効果があるが、認知症の進行に対しての効果は確認できていない
ということがいえると思います。
つまり
認知症を発症するまでに運動介入をすることが重要である
といえますね。
では認知症を発症してしまえば先ほど出したような発言は正当化されるのでしょうか?
認知症があるからリハビリができない
認知症があるから動いたら危ない
は正当な主張なんでしょうか?
認知症がある患者・利用者に対してどんなリハビリテーションや支援ができるのか
先ほどのような主張を正当化するということは、認知症がある方に対しては支援できなくて当然。という姿勢を正当化することになります。
先日、このようなツイートをしました。
このような状況ですので、認知症は無視できないし、認知症だからとなにもできない、とは言っていられる状況ではないのです。
さきほどのような発言の背景には
自分たちが提供するリハビリや支援はこれだ!
という無意識のうちに患者・利用者を自分たちが提供するリハビリテーションや支援に当てはめている部分があるんじゃないかと思います。
リハビリテーションや支援の主役は私たちリハビリテーションや支援を提供する側ではなく、提供される患者・利用者です。
私たちのリハビリテーションや支援に当てはめるのではなく、認知症をお持ちの方がどんなことをしたら彼らの生活がより良くなるのかを考えていかないといけないのではないでしょうか。
そうではありません。
先ほどご紹介したガイドラインは認知症という疾患自体への効果についてのお話で、認知症を発症した方への話ではありません。
認知症を発症していても社会の中で生活するひとりの人なのです。
日本作業療法士協会は平成29年に「認知症のリハビリテーションを推進するための調査研究報告書」というものを出しており、その中で認知症のリハビリテーションの定義について次のように述べています。
2015年1月に「認知症施策推進総合戦略」を策定しその方向性を示したところであり、この中でリハビリテーションについては、「認知症の人に対するリハビリテーションについては、実際に生活する場面を念頭に置きつつ、有する認知機能等の能力をしっかりと見極め、これを最大限に活かしながら、ADL(食事、排泄等)やIADL(掃除、趣味活動、社会参加等)の日常の生活を自立し継続できるよう推進する。」と示している。
つまり認知症のリハビリテーションとは認知症を改善することを目的とするのではなく、認知症を発症した方の生活をいかにして良くしたり、継続していくかが課題となります。
まとめ
認知症を発症した方に対する支援やリハビリテーションについて簡単にまとめました。
認知症を発症してしまうと、その進行を遅らせたり止めることは現在の段階では明確に効果がある方法は確立されていません。
しかしそこで諦めてしまうのではなく、認知症を発症したそのひとりの人がどのようにして今の生活を継続していくのか、生活を良くしていくのかを課題として支援することはできます。
リハビリテーション専門職は自分たちの理学療法や作業療法の枠に囚われず、柔軟な考え方をもって支援にあたることがとても重要だといえます。
自分たちの専門性の枠に当てはめるのではなく、認知症を抱えた患者・利用者を正しく理解し、いかにして貢献できるかを考え、できることをし、できることをしてもらい、増やしてもらうことが大切なのではないでしょうか。
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